小説の読み方、批評理論の入門にフランケンシュタインを用いた名著。
誰もが知ってはいるが、読んだことはないフランケンシュタインを題材に、文学理論を紐解く。
[商品説明より]
小説をより深く理解し楽しむためには、徒手空拳では心許ない。『フランケンシュタイン』を素材に小説の技巧と最新の批評理論を丁寧に紹介する。
[amazonレビューより1]
廣野さんが書いていますが、この本のベースになっているのは前半はデイヴィッド・ロッジの「小説の技巧」(1992)、後半はFrankenstein (Case Studies in Contemporary Criticism) -Mary Shelley & Johanna M. Smith- です。こういう本が存在することでわかるように「批評」は学問の一分野として一般的なもので、教養として必須です。後半で列挙された批評理論の数々は、現代において専門でない人でも知っておくべき評価の手法をほぼ網羅していると考えます。すなわち、
1. 道徳的批評:批評する時点での道徳の規範に即しているのかという視点で作品を評価する。
2. 伝記的批評:その作品が作者の人生の投影であろうという視点で評価する。
3. ジャンル批評:形式あるいは内容により作品を分類し論じる。
4. 読者反応批評:作品の「行間」から読者がどう感じるか、という視点で評価する。
5. 脱構築批評:テクスト中の二項対立、その転覆や解体、あるいは概念のパロディ化に注目して評価する。
6. 精神分析批評:作者のクリエイティブな衝動をフロイト的に批評するのが原点だが、男性中心の考え方であり、ユング的、神話的、ラカン的解釈などへ派生していった。
7. フェミニズム批評:作者としての女性、あるいは作品内の女性について論じる。
8. ジェンダー批評:男女の性のくくりに縛られずに作品に描かれる人物関係について論じる。
9. マルクス主義批評:その作品を物としてとらえ、背景にある政治、経済、社会について論じる。
10. 文化批評:その作品が知識人、あるいは市民に与えた文化的影響を論じる。
11. ポストコロニアル批評:植民地がどう描かれているか、あるいは植民地化されていた国や人々がどう作品を描いたか、という視点で評価する。
12. 新歴史主義:背景としての単なる歴史、ではなくジャレドダイヤモンドのように歴史を大きな社会学として考え作品との関わりを議論する手法。
13. 文体論的批評:テクストの要素を科学的に分析して評価する。
14. 透明な批評:作品が現実であるかのように中に入り込んで論じる手法。
です。何か作品を作ればこれらの視点で批評を受けるのが現代です。そしてこの視点で「発表時点ですでに古い」「間違った既成概念」と指摘されれば、作品の価値は言わずもがなでしょう。
[amazonレビューより2]
批評理論の手軽な入門書と思って読んでみたが、想像以上の内容に大満足の一冊。まず、1部で小説「フランケンシュタイン」を批評し、2部で具体的な批評手法をコンパクトに紹介している。まず、1部のフランケンシュタインの分析があまりにも見事で驚かされる。小説とはこのように分析するのかと、自身の浅い読み方を猛省した。2部の批評手法の紹介も端的で分かりやすい。最近だと内容の浅い感想文とそう違わない新書も多いが、それらとは一線を画す中公新書の質の高さを実感させる一冊である。私は「フランケンシュタインなんて興味ないから1部は読み飛ばそう」と思っていたのだが、「まえがき」を読んで引き込まれ結局すべて読了した。小説を深く読みたい人にはぜひオススメである。また、こうした理論は映画の鑑賞にも応用がきくと思われるので、映画に興味のある人もぜひ。